推薦のことば
筆者は蒋家義さんが名古屋大学の研究生だった時に知り合いました。直接の指導教員ではありませんでしたが,蒋家義さんは日本語文法に強い関心を持っていて,時々私の研究室を訪ねてきては長い時間研究について語り合いました。その後の研究の大成がここに『モダリティの体系と認識のモダリティ表現の諸相』として出版されましたことを心よりお慶び申し上げます。
日本では1980年代から1990年代にかけて日本語のモダリティ関する研究が活発になりました。それまでの「詞と辞」の研究などを発展させ,日本語の主観的表現を「命題とモダリティ」という観点から世界の諸言語の中における通言語的な表現として位置付けられるようになったのもこの時代である。これにより,それまでの品詞論的な研究から対照研究,類型論研究の枠組みでも議論されるようになり,意味的,統語的,語用論的に詳細な研究が行われるようになった。筆者の専門とする日本語教育の分野でも,学習者の誤用分析や母語との対照研究を行うことにより,各言語形式の多義性や類義表現との違いが次々に記述されていった。
しかし,モダリティは「話し手が事態や命題,聞き手に関わっている様式,あるいは,主体が動作や状態に関わっている様式を表すものである」(本書の定義)というような漠然としてつかみにくい表現様式である。そのため,2000年代以降はモダリティ研究のブームが少し下火になっていきました。
そのような中で,本研究のように改めてモダリティを取り上げた研究が出てきたことは注目に値します。本研究では「主体や話し手の関与」という観点から「主体関与型モダリティ」(可能,意志),「事態関与型モダリティ」(行為要求,事態評価),「命題関与型モダリティ」(認識),「相互関与型モダリティ」(丁寧さ,情報認識)の四つに分類しています。これは蒋家義さんのオリジナルな考えが表れたもので,これまでモダリィ論において曖昧に論じられてきた主観性について,「主観性とは,話し手の関与が含まれていることであり,客観性とは,話し手の関与が含まれていないことである」という一歩進んだ定義に結び付いています。本研究が世界の諸言語のモダリティ研究に一石を投じるものとなることを期待しています。
名古屋大学大学院人文学研究科教授
杉村泰
2019年12月23日